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横浜地方裁判所 昭和62年(ワ)3431号 判決

原告

石井春信

ほか一名

被告

浅井雅明

ほか二名

主文

被告浅井雅明、同株式会社万倉商事は、各自、原告石井春信に対し一〇三万五六七〇円及びうち九三万五六七〇円に対する昭和六二年四月二〇日から、うち一〇万円に対するこの判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員、原告石井たき子に対し三五万五六七〇円及びうち三〇万五六七〇円に対する昭和六二年四月二〇日から、うち五万円に対するこの判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

原告等の被告有限会社安全運輸に対する請求、被告浅井雅明、同株式会社万倉商事に対するその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用のうち、被告有限会社安全運輸との間に生じた分は原告等の負担とし、被告浅井雅明、同株式会社万倉商事との間に生じた分はこれを一〇分し、その一を右被告等の負担とし、その余を原告等の負担とする。

この判決のうち、原告等勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告等は、各自、原告石井春信に対し一〇七七万一八〇四円及びうち九八七万一八〇四円に対する昭和六二年四月二〇日から、うち九〇万円に対するこの判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員、原告石井たき子に対し七二〇万八〇七四円及びうち六六〇万八〇七四円に対する昭和六二年四月二〇日から、うち六〇万円に対するこの判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

仮執行宣言の申立て

二  請求の趣旨に対する答弁

原告等の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

発生日時 昭和六二年四月二〇日午前九時頃

発生場所 横浜市緑区池辺町四八〇二番地先交差点内

加害車両 普通貨物自動車(横浜一一い三五四七)

運転者 被告浅井雅明(以下「被告浅井」という。)

被害者 訴外石井大樹(以下「訴外大樹」という。)

事故態様 被告浅井は、加害車両を運転して前記場所を東から西に向かつて進行し、前記交差点において信号待ちのため停止し、左折しようとした。訴外大樹は、母親の原告石井たき子(以下「原告たき子」という。)及び兄の訴外石井和春(以下「訴外和春」という。)と共に同交差点を西から東に横断しようとして待つていたが、青信号となつたので横断歩道上を横断し始め、ほぼ渡り切るところで、訴外大樹だけが逆戻りしかけた。

この時、加害車両が右横断歩道を左折進行し、右車両の左後輪付近を訴外大樹の頭部に接触させ、訴外大樹に脳挫滅等の傷害を負わせ、同日午前一一時一〇分死亡させた。

2  被告等の責任

(一) 被告有限会社安全運輸

同被告(以下「被告安全運輸」という。)は、加害車両を所有し、自己のため運行の用に供していたから、自賠法第三条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

(二) 被告浅井

同被告は、加害車両を運転し、横断歩道のある交差点を左折したのであるが、かかる場合には、横断歩道上に横断者中の歩行者がいないことを確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と左折進行した過失により、加害車両の左後部車輪を訴外大樹の頭部に接触させ、本件事故を発生させたから、本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

(三) 被告株式会社万倉商事

(1) 同被告(以下「被告万倉商事」という。)は、加害車両を自己のため運行の用に供していたから、自賠法第三条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

(2) 同被告は、被告浅井の使用者であつて、本件事故は被告万倉商事の業務の運行中発生したから、本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

3  原告等と訴外大樹の関係

原告石井春信(以下「原告春信」という。)、同たき子は訴外大樹の両親であつて、訴外大樹には他に相続人はなく、原告等は、訴外正男の本件事故に基づく損害賠償請求権を各二分の一宛相続した。

4  損害

(一) 葬儀費用等 三二六万三七三〇円

原告春信は、訴外大樹の葬儀をとり行い、その費用として三二六万三七三〇円を支出し、同額の損害を受けた。

(二) 過失利益 一八九九万七八四九円

訴外大樹は、本件事故当時満二歳の健康な男子であつたから、本件事故に遭遇しなければ、一八歳から六七歳に至るまで就労可能で、その間少なくとも昭和六一年度賃金センサス産業計学歴計男子労働者全年齢平均年収額にベースアツプ分五パーセントを加算した四五六万四九八〇円の年収を得ることができたから、これから生活費として五〇パーセントを控除し、ライプニツツ方式による年五分の割合による中間利息を控除すると、その現価は、次のとおり一八九九万七八四九円になる。

456万4,980円×(1-0.5)×8.3233=1,899万7,849円

原告等は、各その二分の一である九四九万八九二四円宛を相続した。

(三) 慰謝料 合計一七〇〇万円

本件事故により原告等は一瞬のうちに最愛の息子を死に追いやられ悲嘆のどん底に尽き落とされ、その精神的苦痛は筆舌に尽くしがたい。

原告等が受けた右精神的苦痛を慰謝するには、各八五〇万円の支払をもつてするのが相当である。

5  損害の填補

原告等は自賠責保険から二二七八万一七〇〇円の支払を受けたので、その各二分の一の一一三九万八五〇円宛を原告等の損害に充当した。

6  弁護士費用

原告等は、被告等が原告等の損害賠償請求に応じなかつたため、本訴の提起・追行を原告等訴訟代理人に委任し、その費用として原告春信は九〇万円、原告たき子は六〇万円を支払うことを約した。

7  結論

よつて、原告等は、被告等に対し、各自、原告春信に対し一〇七七万一八〇四円及びうち弁護士費用を除く九八七万一八〇四円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和六二年四月二〇日から、うち弁護士費用九〇万円に対するこの判決確定の日から、原告たき子に対し七二〇万八〇七四円及びうち弁護士費用を除く六六〇万八〇七四円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和六二年四月二〇日から、うち弁護士費用六〇万円に対するこの判決確定の日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告浅井、同万倉商事の認否

1  1項の事実のうち、事故の態様を除くその余の事実は認める。

事故態様のうち、訴外大樹が前記場所の横断歩道上を通行中、加害車両が右横断歩道を左折進行し、右車両の左後輪付近が訴外大樹に接触し、訴外大樹が脳挫滅等の傷害により同日午前一一時一〇分死亡したことは認め、その余は否認する。

2  2項(二)、(三)の各事実は否認する。

本件事故現場は、横浜市緑区池辺町四八〇二番地先路上で、緑産業道路と主要地方道横浜上麻生線とが交差する梅田橋交差点内である。緑産業道路は幅員約八・五メートル、横浜上麻生線は幅員約一一・五メートルであり、事故現場の横断歩道は、上横浜麻生線にあつて幅員約四・二メートルである。

また、加害車両は、車高が二・三八メートル、車長が八・四五メートル、車幅が二・四九メートル、ホイールベースが四・八メートルであり、運転室左ドア下方部分には「安全窓」があつた。

被告浅井は、緑産業道路を新羽町方面から本件事故現場に向かつて走行し、交差点手前の信号が赤色を表示していたので停車させ、青色に変わつたため発進させ、ハンドルを左に切つた。

加害車両が進行し、横断歩道手前に来たところ、被告浅井は進行方向右側から横断歩道を渡ろうとする訴外大樹、原告たき子、訴外和春(当三歳)の三人を発見し、車両を停車させた。

まず、訴外和春が横断歩道を走つて渡り、次いで訴外大樹を抱いた原告たき子が渡り、原告たき子は渡りきるやすぐに訴外大樹を歩道上に下ろしたので、被告浅井は加害車両を発進させたが、このとき、歩道に下ろされた訴外大樹は、突然今渡つたばかりの横断歩道の方に向かつて逆戻りに走り出して車道に飛び出し、加害車両の左後輪に接触した。

加害車両は、左折するにあたり、交差点中心部の方向に大きく弧を描いていたので、加害車両と歩道との間は大きく開いており、加害車両と訴外大樹が衝突した地点は歩道から約二・五メートルの所で、しかも接触したときは、加害車両は既に左折を終了し、直進状態にあつた。

以上のとおり、被告浅井は、訴外大樹等が横断歩道を渡りきるまで車両を停止させ、訴外大樹等が渡りきつたのを確認してから発進させているのであつて、しかも、訴外大樹には原告たき子がついており、十分に訴外大樹の行動をコントロールし、訴外大樹の保護安全を図ることができる状況にあつたから、被告浅井において、原告たき子を含めた被害者等が交通法規を遵守して行動するであろうと信頼して運転行為をしたとしても、そのような信頼をすることは社会通念上相当であり、本件において、既に通過した歩道上に訴外大樹が突然飛び出すことまで予見することはできなかつたと言うべきである。

したがつて、被告浅井には、本件事故発生に過失はなかつたものである。

3  3項ないし6項の各事実は知らない。

三  請求原因に対する被告安全運輸の認否

1  1項の事実のうち、事故の態様を除くその余の事実は認める。

事故態様のうち、訴外大樹が前記場所の横断歩道上を通行中、加害車両が右横断歩道を左折進行し、右車両の左後輪付近が訴外大樹に接触し、訴外大樹が脳挫滅等の傷害により同日午前一一時一〇分死亡したことは認める。

2  2項(一)の事実は否認する。

(一) 被告安全運輸は、本件事故当時加害車両を所有していたが、同車両は耐用年数を経過した老朽車であつたため廃車することにしたものの、加害車両のボデイーは使用できるものであつたので、訴外いすずトラツク販売株式会社に車体からボデイーを取外すことを依頼し、同社に加害車両を引き渡し、訴外いすずトラツク販売株式会社は、さらに被告万倉商事に右作業を請負わせ、加害車両を引渡した。

(二) 本件事故は、被告万倉商事が右作業を完成し、ボデイーを取外した加害車両の車体本体を引渡すべく運送中発生したものである。

(三) 自動車修理契約は寄託と請負の混合契約と考えられ、寄託中は自動車の運行供用者の地位は失われると解されるから、被告安全運輸は本件事故について自賠法第三条の責任を負わない。

3  3項ないし6項の各事実は知らない。

三  被告万倉商事の抗弁

前述のとおり、本件事故発生に被告浅井には過失がなく、本件事故は専ら原告たき子が訴外大樹の傍らにいたにもかかわらず、訴外大樹が突然道路上に飛び出して加害車両の左後部車輪に接触したため発生した事故である。

また、加害車両にはハンドル、ブレーキ等に異常はなかつたから、構造上の欠陥または機能の障害はなかつたもので、被告万倉商事は自賠法三条但書により免責されるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認し、主張は争う。

第三証拠

証拠の関係は、本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当事者間に争いのない事実

請求原因1項(事故の発生)の事実のうち、事故態様を除くその余の事実、訴外大樹が本件事故により脳挫滅等の傷害を受け、同日午前一一時一〇分死亡した事実は当事者間に争いがない。

二  本件事故の態様

原本の存在、成立に争いのない甲第一四号証ないし第一八号証、証人田島亨の証言により昭和六二年七月二八日に本件事故現場を撮影した写真と認める乙第二号証、同証言により真正に成立したものと認める乙第五号証、証人田島亨の証言、原告たき子、被告浅井各本人尋問の結果(いずれも後記措信しない部分を除く。)によると次の事実を認めことができる。

1  本件事故現場は、横浜市緑区池辺町四八〇二番地先路上で、西方の佐江戸町方面から西方の東方町方面に至る緑産業道路と西北方の市ケ尾町方面からに東南方の小机町方面に至る主要地方道横浜上麻生線とが交差する梅田橋交差点の上麻生線上の小机町側の横断歩道上である。

緑産業道路は幅員約八・五メートルの道路、横浜上麻生線は車道の幅員約一一・五メートル、両側に歩道が設置された道路で、事故現場の横断歩道の幅員は約四・二メートルであり、横浜上麻生線と緑産業道路の交差点の小机町方面側の角は大きく隅取りされ、ガードレールが車道内に進入して設置されている。

2  加害車両は、車高が二・三八メートル、車長が八・四五メートル、車幅が二・四九メートル、ホイールベースが四・八メートルの普通貨物自動車であるが、車体からボデイーが外されているため、運転席の後方は幅一・〇九メートルのシヤシーだけになつていて、後方で左右各二輪のタイヤがシヤシーから突出した形状をなしていた。

被告浅井は、加害車両を運転して緑産業道路を東方町方向から本件事故現場に向かつて走行し、交差点を左折して小机町方面に進行しようとしたが、進行方向の信号が赤色を表示していたので停車させ、青色に変わつた後発進させ、ハンドルを左に切つた。

3  原告たき子は、保育園児の長男の訴外和春(当三歳)を保育園まで送るため、次男の訴外大樹を連れて横浜上麻生線の南西側にある自宅を出て本件事故現場の交差点にさしかかり、本件事故現場の横断歩道を南西方向から北東方向に横断しようとし、横断歩道の歩行者用信号が青色の表示に変わつたので横断を開始した。

4  最初に訴外和春が横断歩道を走つて渡りきつて歩道上で立止まり、その約二メートル後を原告たき子と訴外大樹が、原告たき子が右手で訴外大樹の左手で掴んで横断したが、歩道の一歩手前で訴外大樹は原告たき子の手を離し、原告たき子はその場に立ち止まつた。

5  被告浅井は、加害車両を進行させ横断歩道手前に来たところ、進行方向右側からに横断歩道を渡ろうとする原告たき子等を発見し、車両を停車させた。

6  被告浅井は、訴外和春が横断歩道を走つて渡つて歩道上に立ち、次いで原告たき子が歩道の一歩手前まで渡つたのを認め、加害車両を発進させた。

加害車両を発進させる時まで、被告浅井は横断歩行者のなかに訴外大樹があることに気付いていなかつた。

7  訴外大樹は、原告たき子から手を離して渡つてきた横断歩道を戻りかけ、これに気付いた原告たき子の声で立ち止まつたが、その時左折し、内廻りをしてきた加害車両の左後輪に接触し、その場に転倒した。

加害車両と訴外大樹が衝突した地点は、原告たき子が立ち止まつた位置から約一・五メートル車道内の場所であつた。

8  被告浅井は、左折するにあたり、小机町方面から進行し、赤信号で進行方向右側に停車していた対向車に注意をとられ、横断歩道を戻りかけた訴外大樹に気付かず、加害車両の後方でした物音で初めて訴外大樹に気付いた。

以上のとおり認められる。

被告浅井、同万倉商事は、本件事故態様につき、訴外和春が横断歩道を走つて渡り、次いで訴外大樹を抱いた原告たき子が渡り、原告たき子は渡りきるやすぐに訴外大樹を歩道上に下ろしたので、被告浅井は加害車両を発進させたが、このとき、歩道に下ろされた訴外大樹は、突然今渡つたばかりの横断歩道の方に向かつて逆戻りに走り出して車道に飛び出し、加害車両の左後輪に接触した旨主張し、前掲乙第四号証、証人田島亨の証言、被告浅井本人尋問の結果中には右主張に沿う部分がないではないが、前掲乙第一四号証中の訴外田島亨、被告浅井の指示説明、原告たき子本人尋問の結果に照らし、右証言等はにわかに措信できず、他に前の認定を左右するに足る証拠はない。

三  被告等の責任

1  被告安全運輸

原告等は、同被告は、加害車両を所有し、自己のため運行の用に供していたから、自賠法第三条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである旨主張する。

しかし、被告浅井本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、被告万倉商事は、トラツクのシヤシーのメーカーからボデイを受注して製造する会社であること、被告安全運輸は、本件事故当時加害車両を所有していたが、同車両は耐用年数を経過した老朽車であつたため廃車することにしたものの、加害車両のボデイーは使用できるものであつたので、訴外いすずトラツク販売株式会社に車体からボデイーを取外すことを依頼し、同社に加害車両を引き渡し、訴外いすずトラツク販売株式会社は、さらに被告万倉商事に右作業を請負わせ、加害車両を引渡したこと、本件事故は、被告万倉商事が右作業を完成し、ボデイーを取外した加害車両の車体本体を引渡すべく運送中発生したものであること、被告安全運輸と被告万倉商事との間には指揮監督関係、専属的受益関係等特別の関係は無かつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によると、本件事故当時、加害車両に被告安全運輸の運行支配は及んでいなかつたと認められるから、同被告は本件事故について自賠法第三条の責任を負わないものと判断される。

2  被告浅井

二項に認定の事実によると、同被告は、車長八・四五メートルのシヤシーのみの特殊な形態の車両を運転し、横断歩道のある交差点を左折しようとしたのであるから、進行方向右側の横断歩道上に進出する歩行者がいないことを常時看視する等歩行者の安全を十分に確認して進行すべき注意義務があつたのにこれを怠り、漫然と左折進行した過失により、本件事故を発生させたものと認められるから、同被告は本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

3  被告万倉商事

本項の1に認定の事実によると、同被告は、本件事故当時、加害車両を直接占有し、これを運行する権原を有していたものと認められるから、同被告は自賠法第三条により本件事故により生じた損害を賠償すべきものと判断される。

なお、同被告は、自賠法第三条但書による免責の主張をするのであるが、前示のとおり、加害車両を運転していた被告浅井に、本件事故発生に責任が認められるので、被告万倉商事の主張は認められない。

三  原告等と訴外大樹の関係

原告たき子本人尋問の結果によると、原告春信は訴外大樹の父、原告たき子は母であつて、訴外大樹には他に相続人はなく、原告等は、訴外大樹の本件事故に基づく損害賠償請求権を各二分の一宛相続したことが認められる。

四  損害

1  葬儀費用等 九〇万円

原告たき子本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第一、第二号証の各一、二、第三ないし第一三号証によると、原告春信は、訴外大樹の葬儀をとり行い、その費用等として三二六万三七三〇円を支出し、同額の損害を受けたことが認められるが、弁論の全趣旨、経験則によれば、本件事故と相当因果関係のある損害としては、右金員のうち九〇万円をもつて相当額と認める。

2  逸失利益 一八四一万八六三〇円

原告たき子本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、訴外大樹は本件事故当時満二歳の健康な男子であつたことが認められるから、本件事故に遭遇しなければ一八歳から六七歳に至るまで就労可能で、その間少なくとも昭和六二年度賃金センサス男子労働者産業計、学歴計、全年齢平均額である四四二万五八〇〇円を下らない年収を得ることができたから、これから生活費として五〇パーセントを控除し、ライプニツツ方式による年五分の割合による中間利息を控除すると、その現価は、次のとおり一八四一万八六三〇円になり、原告等は各その二分の一である九二〇万九三一五円宛を相続したことが認められる。

442万5,800円×(1-0.5)×8.3233=1,841万8,630円

3  慰謝料 合計一五〇〇万円

原告たき子本人尋問の結果によると、本件事故により原告等が一瞬のうちに最愛の息子を死に追いやられて悲嘆のどん底に尽き落とされ、その精神的苦痛は筆舌に尽くしがたいものがあつたことが窺われ、その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、原告等が受けた右精神的苦痛を慰謝するには、各七五〇万円の支払をもつてするのが相当とみとめられる。

五  過失相殺

二項に認定の事実によると、本件事故は、被告浅井が、左方の横断歩道上に進出する歩行者がいなことを確認する等歩行者の安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と左折進行した過失により加害車両の左後部車輪を訴外大樹の頭部に接触させたことにあるが、訴外大樹にも、ほぼ道路の横断を終え、加害車両が発進したにもかかわらず、加害車両の進行に注意せず横断歩道を引き返そうとした過失があり、訴外大樹の保護者である原告たき子にも、加害車両の動きに注意し、訴外大樹がこのような危険な行動に出ないように監護すべき注意義務を怠つた過失があつたもので、その他、本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、本件事故により生じた損害につき過失相殺として三〇パーセントを控除するのが相当である。

六  損害の填補

以上によると、原告等の受けた損害は、相続分も含め原告春信が一二三二万六五二〇円、原告たき子が一一六九万六五二〇円になるが、原告等が自賠責保険から二二七八万一七〇〇円の支払を受け、右金員を一一三九万〇八五〇円宛損害に充当したことは原告等において自認するところであるから、右一一三九万〇八五〇円を原告等の損害に充当すると、原告春信の受けた損害は九三万五六七〇円、原告たき子が受けた損害は三〇万五六七〇円になる。

七  弁護士費用

弁論の全趣旨によると、原告等が本訴の提起・追行を原告等訴訟代理人に委任して相当額の費用を支払うことを約したものと認められるところ、本件事案の内容、認容額等諸般の事情を考慮すると、右弁護士費用は原告春信につき一〇万円、原告たき子につき五万円が相当と認められる。

八  結論

よつて、原告等の本訴請求は、被告浅井、同万倉商事に対し、各自、原告春信に対し一〇三万五六七〇円及びうち弁護士費用を除く九三万五六七〇円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和六二年四月二〇日から、うちは弁護士費用一〇万円に対するこの判決確定の日から、原告たき子に対し三五万五六七〇円及びうち弁護士費用を除く三〇万五六七〇円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和六二年四月二〇日から、うち弁護士費用五万円に対するこの判決確定の日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、被告安全運輸に対する請求、被告浅井、同万倉商事に対するその余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民法訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 木下重康)

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